ジャパン・プラットフォーム(JPF) 公式ブログ

緊急人道支援組織、認定NPO法人ジャパン・プラットフォーム(JPF)のブログ。NGO・経済界(経団連、企業など)・政府(外務省など)が連携し、国内外の緊急人道支援を実施。寄付金・募金受付中。

「強制移動と技術災害:福島を『生きた』事例として」

はじめまして。JPF事業推進部のモシニャガ アンナと申します。

今回、私は720日にロンドン大学の学術機関Refugee Law Initiative が主催した国内避難民問題に関するワークショップで発表を行いましたので、そのご報告を投稿させていただくことになりました。

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    ワークショップが行われたロンドン大学本部(Senate House

 「国内避難民?JPFの地域事業部の活動とどう関係あるの?」とほとんどの方が疑問に思うかも知れませんが、JPFが国内で対応してきた東日本大震災も、熊本地震も、そして現在対応している西日本豪雨災害も、規模の違いがあるものの、全て国内避難民の発生を伴っています。

 国連の定義で、国内避難民(Internally Displaced Persons: IDPs)とは、紛争や暴力行為、深刻な人権侵害や、自然もしくは人為的災害などによって家を追われ、自国内での避難生活を余儀なくされている人々を指します。国内避難民モニタリングセンター(Internal Displacement Monitoring Centre - IDMC)の報告では、2017年の間に、わかっているだけでも、新たに3060万人もの国内避難民が日本も含む143の国と地域で発生しました。このうち、1880万人が災害によって家を追われ、1180万人が紛争によって紛争などによって家を追われたとされています(紛争・災害別の内訳は下記の図を参照)。もちろん、「国内避難民」と一言でいっても、災害時に自治体などによって出された避難勧告などを受け事前に避難できた人から、自宅が爆撃に遭い命からがら逃れてきた人まで、非自発的な移動[Displacement、以下強制移動]の経験とそれによって人々が被ることになった影響は、千差万別です。しかし、世界中で強制移動を強いられている人の数が、前代未聞のペースで増え続けている今、国際問題として注目を集める難民や移民と比べ、国内避難民の問題は、おきざりにされる傾向があります。 

 

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 ロンドンで行われたワークショップは、1998年に国連によって「 国内避難民に関する指導原則Guiding Principles on Internal Displacement)」が採択されてから20周年にあたる今年に国内避難民問題に対応するための機運を盛り上げよう開催されました。各国から研究者・政策立案者・援助実務者が会して、これまでのアプローチを振り返り、国内避難民問題の現状、また今後の展望について議論がなされました。JPFは、災害や紛争が原因で発生した国内避難民への人道支援を国外各地で展開してきた経験に加え、東日本大震災と福島第一原発事故がきっかけで避難を強いられた多くの避難者に対しては息の長い支援を続けてきた経緯があり、当ワークショップでの私の発表は、福島の原発避難に着目したものとなりました。

 原発事故のような技術災害は、稀だと考えられていますが、一度起こってしまったら、その影響は、長期的で多岐におよぶ複雑なものとなります。しかし、国際的には技術災害がもたらし得る大規模且つ長期的な強制移動・国内避難民問題に対してはほとんど議論が進んでいません。だからこそ、私の発表は『強制移動と技術災害:福島を「生きた」事例として』と題して、災害に起因する強制移動問題を、長期的な時間軸で捉える重要性を示している現在進行形でまさに「生きた事例」である福島の現状を取り上げました。復興庁が発表している避難者数だけをみれば、福島県内の避難者数も含め、全国的に減少しています。しかし、東日本大震災と原発事故の影響は、各地において様々であり、地域間の復興ペースにはばらつきが出ています。朝日新聞が2018年に実施したアンケートによると、地元の「復興が進んでいる」もしくは「まあまあ進んでいる」と答えた人の割合は、岩手で84%、宮城で67%だったのに対して福島では、たったの36%にとどまっています。こうした復興格差は、震災以前から存在していた地域間の経済・社会面での格差と絡み合い、一層顕著になっています。地域の社会・経済基盤を根本から揺るがした震災と原発事故からの復興過程では、避難指示区域の編成や解除、支援の打ち切り、放射能への不安といった複雑な課題を背景に、多くの人は、なんとか生活を立て直すための術を見出す必要がありました。しかし、それが出来ずにいる人にとっては、社会・経済的孤立や疎外から苦しんでいる状況が続いています。

 

 災害時の避難問題は、緊急時の対策の課題としてのみ捉えられがちですが、長期化すればするほど、それは困難で苦痛を伴う復興プロセスの一環として捉え、取り組む必要があります。福島での原発事故が突き付けた人的・社会的課題は、避難問題と密接に関係する多面的な脆弱性をあらわにし、長引く復興過程のなかでこうした脆弱性は、地域格差、雇用状況の不安定・不透明化そして社会・経済的疎外や孤立といった、既存のより構造的な社会経済問題と深く結びつくことを示しています。こうした問題は、決して日本特有ではなく、多くの先進国と発展途上国に共通している構造的な課題です。

 

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                RLIのワークショップで発表する筆者

 これらを、ロンドンのワークショップでの私の発表のキーメッセージとしたところ、多くの参加者から「興味深い」、「もっと詳しくききたい」、「プレゼンを送ってほしい」など、たくさんの反応をいただきました。また発表の後のディスカッションでは、各地での国内避難民の状況についての専門知識を有している参加者から、「福島の避難問題は、災害に起因する強制移動に対してどのように対処すべきかについて、私たちの多くの想定を覆す、力強い事例だ」とコメントをいただき、福島からの教訓を、今後の国内避難民政策の発展のために発信し続ける重要性を改めて実感しました。

 東日本大震災と原発事故からもうすぐ7年半、国内でさえその記憶の風化が急速に進んでいるといわれていますが、国外ではそれ以上に速いペースで忘れ去られていきます。今回のワークショップで発表したことを通して、少しでも福島の原発避難に関する国際的な関心を取り戻せることに貢献できたことを切に願っております。

 

ジャパン・プラットフォーム(JPF)助成事業推進部

モシニャガ アンナ

 

写真はすべて(C)JPF